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2023/5/25 14:00

住宅の長寿命化が避けられない理由

あなたがこれから建てる家の寿命はどのくらいでしょうか。なんとなく40年くらい、長くて50年程度だと考えている方が多いのではないかと思います。
これまで、日本の新築住宅の平均寿命は30年程度とされてきましたが、それが今後は100年前後に伸びると考えられます。
なぜこのような長寿命化が予想されているのか。今回は、そんな住宅の寿命について考察していきます。

まず始めに、現在の日本の住宅状況を整理しましょう。現在、日本全国の住宅戸数は約6200万戸あります。このうち実際に人が住んでいる総世帯数は約5400万世帯で、空き家率は13%となっています。一方で、新たに建設される住宅、つまり現在の着工戸数は年間で約86万戸となっています。

これらの数値を基に考えてみると、人が住んでいる5400万世帯の住宅を全て新しいものに建て替えるのにはどれくらいの時間がかかるでしょうか。計算すると、5400万÷86万=約62.8年が必要となります。これを「建て替えサイクル」と呼ぶことにしましょう。

さらに将来を見据えると、2040年には住宅の着工戸数が49万戸になると予測されています。この着工戸数で前述の5400万世帯の住宅を建て替える場合、建て替えサイクルは約110年にまで延びることになります。

つまり、着工戸数が減少すればするほど、建て替えサイクルは長くなると予想されます。ただし、一方で、総世帯数も減少していくので、最終的にどの程度まで建て替えサイクルの年数が延びるのか、はっきりとはわかりません。
しかし、こういった動きを考えると、これから建てる住宅は少なくとも100年前後の寿命を見込んで建てるべきという視点が求められるでしょう。


では、今度は逆の視点から考えてみましょう。
今後も住宅の建て替えサイクルが30~40年程度に留まると仮定した場合、一体どのような状況が生まれるのでしょうか。ここでは、そんな仮定のもとでの状況を考察してみましょう。

過去を振り返り、今から30年前の1993年を見てみると、当時の総世帯数は4116万世帯で、着工戸数は151万戸でした。この時点での建て替えサイクルは、4116万世帯を151万戸で割った結果、27.3年となります。
もちろん、その後も総世帯数が伸び続けていることを考えると、90年代当時に建て替えサイクルという考え方は当てはまりませんが、これは従来の一般的な認識である「新築住宅の寿命は30年程度」という数値の根拠のひとつと言えるでしょう。

現在の総世帯数は5400万世帯に増えており、着工戸数が年間150万戸あった場合の建て替えサイクルを計算すると、その結果は36年となります。この数字は、30~40年という建て替えサイクルの範囲内に収まっています。
今後の世帯数の減少を考慮しても、この建て替えサイクルを維持するためには、着工戸数は年間100~150万戸程度は必要となることでしょう。

つまり、現在の着工戸数が86万戸であり、2040年には49万戸まで減少することを考えると、着工戸数が予測を超えて大幅に増えない限り、今後も30~40年ごとに住宅を建て替えるというパターンを続けるのは困難と言わざるを得ません。


住宅の寿命が30~40年程度に留まるという考えは、着工戸数が大幅に増えなければ成り立たないということを理解した上で、これから建てる住宅について考えてみましょう。
今後の住宅は100年単位での耐久性やメンテナンスが必要という新たな視点です。
これは一方で、今までの住宅に対する考え方、つまり30年程度の寿命を前提とした視点を大きく変える必要があるということを示しています。

最も気をつけなければならないのは、新築時のコスト配分です。
新築時に豪華な住宅設備を採用し、住宅の基本性能である地盤や基礎、構造体の強度を考慮しなかった場合、将来において大規模なリノベーション費用を負担することになります。
10~20年で交換が必要になる住宅設備は、家電や自動車と同じ耐久消費財と考えるべきです。一方で、メンテナンスしながら100年前後は使い続ける構造体は固定資産として扱う必要があります。

また、この視点から考えると、住宅は個人の私有財産であると同時に、将来的に中古市場に流通する社会資本でもあるという視点が必要です。
過度に個人的な趣味やスタイルを反映させた住宅は、確かに所有者のライフスタイルにマッチするかもしれません。しかし、そのオリジナリティが逆に将来的な資産価値を損なう可能性があります。
市場のニーズと一致しない独特なデザインや特殊な設備は、中古市場での取引においてマイナスとなる可能性があるのです。

今後も新築住宅の建設コストは、資材のインフレや人件費の高騰により、ますます増大していきます。
同時に、人口減少に伴う家あまりを背景として住宅投資の減少が進行するでしょう。
これらの要素が相まって、今後は中古住宅への需要が高まると予想されます。

一方で、中古住宅としての資産価値を持たない家は、結果として空き家となり、その維持管理コストを負担しなければなりません。
もし、解体を選択した場合でも、解体費用の高騰により大きな負担を強いられることになるでしょう。
産業廃棄物の最終処分場は、残余容量が少なくなっているため、解体費用は今後も高騰し続ける可能性があるためです。

そうした現実を踏まえると、新築住宅を建てる際には、一時的な満足感だけを追求するのではなく、長期的な視点を持つことが不可欠です。
しかし、これをチャンスと捉え、長寿命化に対応した家づくりを進めることで、より持続可能で、価値のある住宅を作り上げることが可能となるでしょう。
将来、日本の家を引き継ぐ未来の世代のために、優良な住宅ストックを残すことができるよう、今こそ家づくりに対するアプローチを大きく変えるべきだと考えます。